778:石牟礼道子 その2「十六夜橋」

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正月早々に北陸地方の地震で大変なことになっていて、TVでは各チャンネルが地震の現状を伝えています。
まことに失礼ながらそんな報道を斜めに見ながら、

年末から昨夜にかけて作家石牟礼道子の「十六夜橋」(ちくま文庫)を読了しました。
記事777での「苦海浄土」に続く二作目です。

 778:石牟礼道子 その2「十六夜橋」

 物語の舞台は長崎・天草・天草の対岸の芦北(文中では葦野とありますが、幼い時を過ごした芦北あたりではないかと想像)です。
 778:石牟礼道子 その2「十六夜橋」
この地図は新詳高等社会科地図(帝国書院)からの引用です。

この物語はなんとも幻想的です。護岸工事・築堤などを取り仕切る人々の具体的叙述もありますが、主文は幻想・幽玄の世界です。

その幻想・幽玄の世界を彩るのは三世代+1の女性たち。そに加えて護岸工事の大旦那と若き使用人の二人の男性。さらにその周辺の登場人物。その登場人物すべてが主人公といった描かれ方です。

特に印象的なのが、あらぬ世界に誘われた「志野」にまつわる表記は陶酔人の頭の中で整理できない表現が続きます。死者との対話・現実との混在・じっくり読んでも判然としない。判然としないながら読まずにはいられない、読み進めなければならない心境に誘われます。

これは前作「苦海浄土」でも同じ心境でした。

  778:石牟礼道子 その2「十六夜橋」
この写真は本カバーからの転載です。

「・・・湊の口を象っている長い岬や山々の稜線が、月明かりの下に沈みこんでいた。垂れこめた霧のために、狭い湾口が川にもみえ、夕べは目に入らなかった異国船のマストがおぼろに浮いている・・・」といった文学的な文章がある一方で、

「・・・摘み立ての鬼灯の香りと手ざわりが、志野を僅かになぐさめていた。もの見えていた頃と、まったく寄る辺ない暗闇にいる今とをつなぐ、かすかな通路のようなものだった・・・」などの表記が判然とはしないながら陶酔人の琴線を揺さぶるのです。

一方で、
「・・・山の傾斜地で、トロッコを使えるレール道は作れそうにない。木馬道を作って、梃子とジャッキで辛抱づよくおろすよりほかないと想う。石が走り出さぬよう、チェーンとロープをつけて曳く人数も要る・・・」と土方工事の具体的表記もあります。

この曖昧とリアルさの混在・混淆が作家石牟礼道子の真骨頂ではなかろうか・・・?

石牟礼道子wiki

  かなり石牟礼道子にノックアウトされている陶酔人



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